共通テストの数学をめぐる一考察

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千石教室の南です。

受験シーズンも終わり、新学年が始まりました。授業に置いてけぼりにされないよう頑張りましょう。

 

 

 

さて、昨年度行われた大学入試の共通テストについて考えたいと思います。

とくに平均点がとても低かった数学1.Aについてです。

平均点は37.96点と史上稀にみる低さとなりました。

私も解いてみましたが、大量の導入部分と、あまりに長い誘導の文章にげんなりとする問題でした。

 

 

小手先のテクニックでは解けず、過去問をリピートしても対応できなかったと思います。

国公立大受験生や、私立理系受験生で数学を使う層にとっては、なんとか耐えた結果だったでしょうが(それでも厳しい得点になったはず)、

私立文系で数学を頑張っているような、理解がまだ足りない層にとってはかなり苦しい結果となったと思います。

 

意味なく負担が大きい今回の試験は、正直数学の頭を使ったというより、「とにかく文章を読まされた」という充実感のない苦労が積もる試験だったというのが正直な感想です。

 

私が受験生だった時代は

「センターは8割超え。東大・京大なら9割を超えて当然」という時代でしたが、それは過去ものになっていると思います。

 

正直、個人的にテスト作問者として、平均が30点台というのは作問ミスという他ないと思っています。

(後に考えが少し変わるのですが、それは後半に述べます)

 

なぜなら、合理的な受験生であれば、

 

「数学は時間をかけてもどうせ点が取れないから無駄で、コスパが悪い」

「最低限勉強して、できるところだけとる」という「損切り」の発想になるのが普通だからです。

 

ずる賢い塾講師であれば、

 

「長文の問題は面倒だから、まず飛ばしなさい。短めの文章の問題を選択して、問1、問2だけをまずは解いてしまって、点数を積み上げなさい。どうせ難問は誰もできないし平均も低い。考えても無駄だから、勉強時間は他の科目に回しなさい」

という指導をするでしょう。

 

これが、大学入試センターが望むことなのでしょうか。

 

最近ニュースにもなっていた、早稲田政経学部が数学を受験必須科目にしたという新しい動き。

これは本当に素晴らしいと思っています。大学でも数学を使う経済学部としてはある意味当然のことなのですが、これを私立大学の雄、早稲田が踏み切った意義は大きいです。

 

この共通テストの作問は、そういう「苦手でも数学に前向きに取り組んでいる層」に誤ったメッセージを送る結果にならないか。

 

非常に憤りと疑問を感じていました。

こういう声はネットや受験生にも多く見られたので、次回は多少簡単になるかもと思いながら、過去の資料を見返していましたが、

 

 

 

実は、最近、少し考えが変わってしまいました。

 

 

 

 

 

大学入試センターは、問題の作問方針というのはあまり詳細にしておりません。まぁ、これは当たり前のことではあります。

しかし、プレスリリースされている資料の中に多くのヒントが散りばめられています。

 

 

そもそも令和4年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト問題作成方針には

 

 

「 出題教科・科目に選択科目、選択問題がある場合は、選択科目間の平均得点率に著しい差が生じないように配慮する」とのみあります。

 

 

 

要は、例えば社会(or理科)の受験生で、世界史・日本史・地理(化学・生物・物理・地学)の科目間の平均が差が出ないようにするという趣旨です。

ですから選択科目・選択問題がない、英語、数学、国語などは、平均点にはまるで言及されていないんです。

 

よく考えれば、そりゃ当たり前です。数学1・A という科目の受験生は同じ問題を解いているわけですから、別に平均が低かろうが、大学入試センターにとって不都合は生じないわけです。

 

では、選択科目以外の科目では、どんな点数分布になってもいいと彼らは考えているのでしょうか?

大学入試センターがどう考えているか知るには、共通テストの試行調査報告の中にヒントが隠れています。

 

 

 

 

 

遡ること、共通テスト実施前の数年前。

 

 

どういう問題を作るべきか、全国的に「 試行調査」が行われていました。

この試行調査の結果をまとめたこの報告書には、6ページに平均点についての言及があります。

 

 

 

「5割程度の平均得点率を念頭に実施した。結果として5割以上となったのは(中略)全19科目中、14科目であった」

 

 

とのみです。かなり簡素な言及になっています。

 

 

 

一方、注目すべきは8ページ。標準偏差についての言及があります。

 

 

「過去3年間のセンター試験の標準偏差は概ね15〜20となっている。(中略)今回の試行調査において標準偏差15を下回った科目は数学2・B、日本史B、現代社会、政治・経済、生物、地学であった。数学2・Bについては平均得点率が低かったことを踏まえると試行調査の受験者に対しては問題の難易度が高く、標準偏差が小さくなったものと考えられる。地学については受験者数が少なかったことを考量する必要があるが、数学2・B、生物と同様の理由が考えられる。(中略)共通テストに向けては正答率が中程度の設問数を増やすなど、試験問題全体のバランスに配慮する必要がある。」

 

 

と、かなり具体的な数値にまで言及されています。

 

 

特に標準偏差15をわずか0,58下回っただけの数学2・Bにまで言及されていることは、大学入試センターが標準偏差15をかなり意識していることをうかがわせます。

 

またその後の各科目ごとの分析資料においても(14ページ〜26ページ)、「多様な学力層を識別」というキーワードが頻繁に出てきますし、共通テスト本番に向けた指針が書かれている27ページから31ページにも、数学、英語について「幅広い学力層を識別する」という、共通テストの実施目的を示す文言が散りばめられています。

 

 

これらのことから、大学入試センターは

 

私は、「彼らは平均点ではなく、標準偏差を一つの重要な尺度にしているのではないか」と、考えを改めるに至りました。

 

 

皆さんは、最近、中学・高校数学でも重視されつつある、「統計分野」の範囲でも勉強したとは思いますが、標準偏差は「データの散らばり具合」を示す指標ですよね。

 

 

テストを作る学校の教師側としても、みんな90点代の点数を取る試験や、みんな10点代の点数となる試験を作ってしまうと、「平均点が高い」ことが問題というより、「できる人とできない人の差がつかないこと」が大問題なんです。

 

そう言われてみると、標準偏差15というのは、確かにいい感じのデータ分布になります。(これはあくまで感覚の話ですが)

 

 

 

そして、令和4年共通テストは

 

数学1・Aは標準偏差17.12

数学Ⅱ・Bは標準偏差17,05と、実に、試行調査で想定していたような、理想的な範囲に収まっています。

 

 

 

要は、平均点が低くても、数学ができる人とできない人で、ある程度、点数がばらけていることが分かります。

つまり、「数学の能力がある人もない人も、ほとんど点数が変わらない」といったようなダメな試験ではなかったという見方もできるということです。

 

 

 

とすれば、実はこの物議をかもした数学1・Aの作問は、出題者の意図通りになっている可能性があります。

いくら我々が騒いだところで、彼らがそれに対して出題の傾向を変える気が、毛頭ない可能性さえありうると考えます。

 

実際、試行調査のレポートの中でも「平均5割を目指す」と明確に謳われた記述はありませんでした。

標準偏差にはあれほど言及があるにも関わらずです。

 

とすれば、我々は実は、この数学の傾向が続くことを念頭に来年の受験を迎える必要があります。

 

 

 

教科書をマスターし、問題を解き、難問にチャレンジする。

 

センターの過去問を回したところで点数が取れるようになる問題はでないということは、実は王道の方法に戻る必要があります。

 

 

 

基礎をしっかり固め、演習を繰り返し、そのうえで難問に取り組みましょう。

 

 

 

 

 

 

 

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